「前回の塗装から3年しか経っていないのに、この部分だけ剥がれている」
こんな相談を受けることがある。外壁全体ではなく、特定の場所だけ異常に劣化が早い。
その原因の一つが浄化槽から発生するアンモニアガス。
浄化槽の排気口周辺では、アンモニアを含んだガスが常に放出されている。このガスが外壁や金属部分に当たり続けると、通常より早く塗膜が劣化し、金属は腐食する。
問題は、多くの業者がこの原因に気づかないこと。
「前回と同じ塗料で塗り直しましょう」と提案され、また3年で剥がれる。これを繰り返している住宅は少なくない。
この記事では、浄化槽周辺の腐食メカニズムと、見積もり段階で確認すべきポイントを解説する。
浄化槽とアンモニアガスの関係
浄化槽の仕組み
浄化槽は、生活排水を微生物の力で分解・浄化する設備。トイレ、キッチン、浴室などからの排水を処理する。
処理の過程で、アンモニア(NH₃)を含むガスが発生する。このガスは浄化槽の排気口(臭突、ブロワー周辺)から外部に放出される。
アンモニアガスが外壁に与える影響
アンモニアはアルカリ性の気体。塗膜や金属に対して以下の影響を与える:
塗膜:アルカリ性により塗膜が劣化、変色、剥離
鉄部:腐食が加速(通常の数倍の速度)
アルミ:白い粉を吹く(アルミの腐食)
銅:緑青(ろくしょう)が発生
特に排気口から半径1〜2m以内は、アンモニア濃度が高く、劣化が著しい。
こんな症状があったら浄化槽が原因かも
症状1:特定の場所だけ異常に劣化が早い
外壁全体ではなく、一部分だけ塗膜が剥がれている、変色している。
特に浄化槽の排気口周辺、ブロワー(送風機)の近くに症状が集中している場合は、アンモニアガスが原因の可能性が高い。
症状2:金属部分の腐食が激しい
排気口周辺の雨樋、水切り、換気フードなどの金属部分が、他の場所より明らかに錆びている。
症状3:塗り替えても数年で剥がれる
「前回塗ったのは5年前なのに、ここだけもう剥がれている」
通常の塗料は10年程度持つはずが、浄化槽周辺だけ3〜5年で劣化する場合、アンモニアガスの影響を疑うべき。
症状4:排気口から臭いがする
浄化槽が正常に機能していても、排気口からは多少の臭いがある。しかし、強い悪臭がする場合は、浄化槽のメンテナンス不足でアンモニア発生量が増えている可能性がある。
なぜ多くの業者が気づかないのか
理由1:原因を調査しない
多くの業者は「剥がれている → 塗り直す」という対応しかしない。
「なぜこの部分だけ剥がれているのか?」という原因調査をしない。浄化槽の位置を確認しない。だから、同じ塗料で塗り直して、また剥がれる。
理由2:浄化槽の知識がない
外壁塗装の職人は、塗装の専門家であって、浄化槽の専門家ではない。アンモニアガスが塗膜に与える影響を知らない職人も多い。
理由3:対応が面倒
アンモニア対策には、通常とは異なる塗料や下地処理が必要。「面倒だから普通に塗ってしまおう」という判断が働くこともある。
浄化槽周辺の正しい対策
対策1:原因の特定
まず、剥がれている場所と浄化槽(排気口)の位置関係を確認する。
・排気口から半径1〜2m以内か
・風向きの関係でガスが当たりやすい場所か
・他の場所と比べて劣化が早いか
対策2:アンモニア対応塗料の使用
浄化槽周辺には、耐アルカリ性の高い塗料を使用する。
・エポキシ系の下塗り材(耐薬品性が高い)
・耐アルカリ性を謳った上塗り材
・金属部分には耐食性の高い塗料
通常の外壁用塗料では、アンモニアガスに耐えられない。
対策3:排気口の位置変更・延長
根本的な対策として、排気口の位置を変更する、または延長管を取り付けて外壁から離す方法もある。
これは塗装業者ではなく、設備業者の仕事になるが、提案できる業者は信頼できる。
対策4:浄化槽のメンテナンス
浄化槽の清掃・点検が不十分だと、アンモニア発生量が増える。定期的なメンテナンスを行うことで、ガスの発生を抑えられる。
見積もり段階で確認すべきポイント
確認1:業者が浄化槽の位置を把握しているか
見積もりのための現地調査で、業者が浄化槽の位置を確認しているかどうか。
「浄化槽の位置は確認されましたか?」 良い反応:「はい、排気口の位置も確認しました。周辺の劣化状況も見ています」
「浄化槽ですか?特に見ていません」
確認2:局所的な劣化の原因を説明できるか
もし外壁の一部だけ劣化が激しい場合、その原因を説明できるかどうか。
「この部分だけ劣化がひどいのはなぜですか?」 良い反応:「浄化槽の排気口が近いので、アンモニアガスの影響かもしれません」
「たまたまでしょう」 「日当たりの問題かも」
確認3:浄化槽周辺の対策が見積書に含まれているか
浄化槽がある住宅では、見積書に以下の記載があるか確認:
・浄化槽周辺の塗料が別途指定されているか
・耐アルカリ性の下塗り材が含まれているか
・「浄化槽周辺は別途対応」などの記載があるか
見積書に何も記載がなければ、業者が浄化槽の影響を考慮していない可能性がある。
確認4:過去の剥がれ原因を調査してくれるか
前回の塗装から数年で剥がれている場合:
「前回の塗装から○年で剥がれているんですが、原因は何だと思いますか?」 良い反応:「浄化槽の排気口が近いので、アンモニアの影響を調べてみます」「前回使った塗料と施工方法を確認させてください」
「前の業者の施工が悪かったんでしょう」 「うちで塗れば大丈夫です」
原因を調査せずに「うちなら大丈夫」と言う業者は、同じ失敗を繰り返す可能性が高い。
見積もり時に業者に聞くべき質問
質問1:「浄化槽周辺の塗装で気をつけることはありますか?」
この質問で、業者がアンモニアガスの影響を知っているかどうかがわかる。
「排気口周辺は耐アルカリ性の塗料を使います」 「アンモニアガスの影響があるので、通常より耐久性が落ちる可能性があります」
「特にありません」 「どこも同じ塗料で大丈夫です」
質問2:「排気口周辺の金属部分はどう対応しますか?」
「耐食性の高い塗料を使います」 「腐食がひどければ交換も検討します」
「普通に塗ります」 「錆止めを塗れば大丈夫です」
質問3:「浄化槽周辺だけ早く劣化した場合、保証はどうなりますか?」
保証について事前に確認しておく。
「アンモニアの影響は事前にご説明します。対策塗料を使えば保証対象になります」
「それは保証対象外です」(対策も提案せずに保証外とする場合は要注意)
質問4:「排気口の位置を変えたほうがいいですか?」
塗装業者の範囲外だが、提案できるかどうかで知識レベルがわかる。
「設備業者に相談して、延長管を取り付ける方法もあります」
「それはうちの仕事ではないので」(提案もしない)
浄化槽周辺の腐食 ― 対応の選択肢
軽度の劣化(変色、軽い剥がれ)→ 耐アルカリ塗料で塗り替え
中度の劣化(広範囲の剥がれ)→ 下地処理 + 耐アルカリ塗料
重度の劣化(金属腐食、外壁損傷)→ 補修・交換 + 排気口位置変更の検討
繰り返し剥がれる→ 排気口の延長・位置変更を優先
排気口が外壁に近すぎる場合、いくら良い塗料を使っても限界がある。根本的な解決には、排気口の位置変更が必要なこともある。
業者の現場調査能力を見極める
浄化槽周辺の腐食問題は、業者の「原因を調査する能力」を見極めるポイントになる。
・外壁だけでなく、周辺環境(浄化槽、排気口、日当たり、水の流れ)も確認する ・局所的な劣化があれば、原因を調査して説明する ・対策を提案できる(塗料の変更、設備業者への相談など)
・外壁の表面しか見ない ・「塗れば大丈夫」としか言わない ・過去の剥がれ原因を調査しない
見積もりの現地調査で、業者が何を見ているかを観察することも大切。
まとめ
浄化槽周辺の腐食問題のポイントを整理する。
・浄化槽からアンモニアガスが発生 ・アルカリ性のガスが塗膜を劣化させる ・金属部分は腐食が加速
・特定の場所だけ異常に劣化が早い ・金属部分の腐食が激しい ・塗り替えても数年で剥がれる
・原因を調査しない ・浄化槽の知識がない ・対応が面倒
1. 原因の特定(浄化槽と劣化箇所の位置関係) 2. 耐アルカリ性塗料の使用 3. 必要に応じて排気口の位置変更
排気口が外壁に近すぎる場合、根本的な解決には設備の変更が必要なこともある。それを提案できる業者は信頼できる。
「浄化槽周辺の外壁だけ、妙に劣化が早い」
「前回塗装してから5年も経っていないのに、もう剥がれてきた」
「見積もりをもらったけど、浄化槽のことは何も書いていない」
浄化槽周辺の塗装は、原因を特定し、適切な対策を講じないと同じ問題が繰り返される。
業者が浄化槽の影響を考慮しているか、適切な対策が見積書に含まれているか、第三者の目でチェックする見積もり診断サービスをご利用ください。
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