外壁塗装で使われる高性能塗料の多くは「2液型」と呼ばれるタイプ。主剤と硬化剤を混ぜ合わせて使う塗料で、1液型より耐久性が高いとされる。
しかし、2液型塗料は正しく計量しなければ、その性能を発揮できない。
塗料販売店で35年働くベテランは、こう証言する:
「余るはずのない硬化剤が余っている職人がいる。ということは、ちゃんと入れるべき硬化剤の量が、誤っているということ」
この記事では、2液型塗料の計量がなぜ重要なのか、現場で何が起きているのか、そして見積もり段階でどう確認すればよいかを解説する。
2液型塗料とは何か
1液型と2液型の違い
1液型:そのまま使える。扱いやすい。代表例:一般的な水性塗料
2液型:主剤+硬化剤を混合して使う。高耐久。代表例:フッ素系、無機系の高級塗料
2液型は「主剤」と「硬化剤」を指定された比率で混ぜることで化学反応が起き、塗膜が硬化する。この比率を間違えると、以下の問題が起きる:
硬化剤が少ない場合:塗膜が完全に硬化せず、柔らかいまま。耐久性が大幅に低下 硬化剤が多い場合:塗膜が硬くなりすぎ、ひび割れしやすい 希釈しすぎた場合:塗膜が薄くなり、保護機能が低下
現場で起きている「計量しない問題」
塗料販売店が見た実態
塗料販売店には、職人が使い終わった塗料の返品や追加注文が入る。そこで見えてくる「不都合な真実」がある。
「僕たち販売店側から見ると、塗料の中で余って使わないものがある。しっかりと測っていない職人さんが多いから、余るはずのない硬化剤が余っている」
2液型塗料は、主剤と硬化剤がセットで使い切れるように設計されている。硬化剤だけが余るということは、規定量の硬化剤を入れていないということ。
なぜ計量しないのか ― 屋根塗装の現場で起きていること
【現場のリアル】屋根の上では計量できない
スピード重視の職人は、こんな段取りで作業している:
屋根の上は気温50℃を超えることもあり、シンナーの揮発が非常に速い。塗っている途中で塗料が硬くなり、塗りにくくなる。 そのたびに屋根を降りて計量し直すのは、時間がかかるし体力的にもきつい。結果として「このくらいかな」という感覚でシンナーを追加してしまう。
【現場のリアル】塗料缶を開けっぱなしにする職人
品質管理意識の低い職人は、塗料缶の蓋を開けっぱなしにして作業する。
・蓋を開け閉めする手間を省きたい
・頻繁に塗料を取るので開けておいた方が楽
しかし、蓋を開けっぱなしにするとシンナーが揮発し続ける。時間が経つほど塗料は濃くなり、塗りにくくなる。すると「塗りにくいから」とシンナーを足す。この悪循環で、希釈率はどんどん狂っていく。
なぜこうなるのか ― 構造的な問題
1. 時間短縮のプレッシャー:下請け構造で工期が短い。丁寧にやる時間がない
2. 経験への過信:「長年やってるから目分量でわかる」
3. コスト削減:硬化剤を少なめにすれば、塗料が「節約」できる
4. 道具がない:そもそも現場に秤を持っていない
5. 上り下りの削減:屋根作業では移動を減らしたい
「規定以上に薄めれば、塗料量が増えるのでその分塗料が節約できる。また、塗料の粘りが少なくなるので、刷毛で塗る場合には速く塗ることができる。職人さんは楽なのです」
しかし、薄めすぎた塗料は塗膜が薄くなり、耐久性が大幅に落ちる。塗った直後はわからず、3年後にやっとわかるのが厄介なところ。
計量しないと何が起きるか
短期的な影響(施工直後〜1年)
・見た目はきれい。問題に気づかない
・塗膜の硬化が不十分でも、表面は乾いているように見える
中期的な影響(2〜5年)
・塗膜の剥離が始まる
・チョーキング(粉吹き)が早期に発生
・色褪せが進行
長期的な影響(5年〜)
・塗膜がボロボロになり、下地が露出
・本来10〜15年持つはずの塗料が、5〜7年で限界に
・再塗装が必要になり、トータルコストが増大
「お客さんにも喜ばれる、納得の行く仕事をやったぞ!」と思った現場で、数年後に「屋根がもう色あせてきたけど、どういうことなの!」とクレームを受けた経験がある。 しかし多くの場合、クレームを受けるのは末端の職人。計量ミスや希釈率の問題は、施工後数年経たないとわからないため、責任の所在が曖昧になりやすい。
見積もり段階で確認する方法
質問1:「使用する塗料は1液型ですか、2液型ですか?」
まず塗料のタイプを確認。2液型の場合は計量管理が重要になる。
高耐久塗料(フッ素系、無機系)は2液型が多い。見積もりに「フッ素塗料」「無機塗料」と書いてあれば、2液型の可能性が高い。
質問2:「塗料の計量は秤を使いますか?」
この質問への反応で、業者の姿勢がわかる。
「はい、毎回計量しています」 「デジタル秤を使っています」
「経験でわかります」 「目分量で大丈夫です」 「そこまで神経質にならなくても…」
質問3:「屋根塗装の場合、希釈はどこで行いますか?」
この質問がポイント。 屋根の上で「なんとなく」薄めている業者を見抜ける。
「下で計量して、必要量だけ持って上がります」 「小分けにして、都度計量しています」
「屋根の上で調整します」 「状況を見て薄めます」
質問4:「塗料缶の管理はどうしていますか?」
「使わないときは蓋を閉めています」 「揮発しないよう管理しています」
この質問に明確に答えられない
質問5:「計量や配合の記録を残していますか?」
品質管理意識の高い業者は、施工記録を残している。
・使用塗料の缶数
・主剤と硬化剤の配合量
・希釈率
・施工時の気温・湿度
これらの記録を写真付きで報告してくれる業者は信頼できる。
「計量器具を持っているか」は職人の質を見極めるポイント
「計量器具を持参しているか:塗料は希釈率や塗布量が品質に直結します。正確な重量を測る秤を持っている職人は、メーカー指定の希釈率や塗布量を守る意識が高いと考えられます」
見積もり時に「現場で使う道具を見せてもらえますか?」と聞いてみるのも一つの方法。
・デジタル秤(塗料の計量用) ・計量カップ(希釈用) ・温度計・湿度計(施工環境の確認用) これらの道具を持っている職人は、品質管理への意識が高い。
・「経験があるから道具は要らない」と言う ・道具を見せることを渋る
見積書でのチェックポイント
見積書に以下が明記されているか確認:
「塗装工事一式」で詳細が不明な見積もりは、計量管理がどうなっているかわからない。具体的な塗料名と施工方法を確認すること。
まとめ
2液型塗料は正しく計量すれば高い耐久性を発揮するが、計量を怠れば1液型以下の性能になることもある。
・屋根の上で「なんとなく」シンナーを足す ・塗料缶を開けっぱなしにして揮発させる ・上り下りを減らすため、大量に作って計量が狂う ・硬化剤が余る = 規定量を入れていない
「塗ってしまえばわからない」のが塗装工事。だからこそ、施工前に計量管理の方針を確認することが、品質を守る唯一の方法。
「2液型塗料を使うと言われたけど、計量管理がちゃんとされるか不安」
「見積もりに書いてある塗料が本当に良いものか判断できない」
「業者の説明が曖昧で信頼していいかわからない」
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